薬草と毒草 U






殿・・・毒草にお気をつけください・・・

一度、毒が体内に入れば・・・

それは――

貴方を蝕む【薬草】となりましょう・・・・





「・・・奉・・孝・・・」

曹操はふと、目が覚めた。

目の前に映る寝台の天井を見つめながら、今は亡き者の名をつぶやいた。

まだ、この身体に残る彼の感触、温もり、そして・・・その姿が目を閉じれば、

目の前にいるかのように映し出される――。

だが、それは残り香のように・・・幻にしかない――。

曹操は頬に残る乾いた跡を指でなぞりながら、再び、その名をつぶやいた。


コンコン


「殿・・・」

ノックの音と訪問者の声で曹操は現実に連れ戻された。

戸の向こう側にいる訪問者が誰なのか、曹操は悟ると、顔を歪めた。

――放っておくか・・・――

曹操は無視を決め込んだ。

コンコン

再び、ノックの音。それでも曹操は無視をした。

訪問者は司馬懿。それはもう分かっている。

以前、曹操の全てが欲しいといわれた日から、ずっと同じ時間に夜更けの人目を忍んでの訪問だった。

ノックと無視が無意味のように繰り返される。

毎日毎日繰り返されることに、曹操の機嫌は最高潮に達していた。

今日こそは、殺したい。

そんな不機嫌な精神状態だった曹操は腰に刺してあった短刀を引き抜き、戸を開けた。

何も変わらない司馬懿がそこには立っていた。

「司馬懿よ・・・何度来ても答えは同じだ」

「私めの智謀があれば・・・一瞬で天下統一を成し遂げられましょう。それでも・・・?」

チャキッ

曹操は手にしていた、短刀を司馬懿の首ギリギリの位置に押し当てた。

「うぬぼれるな。お前の才は確かに気に入ってはいるが、それとこれとは関係ない。

                             以後、わしの眠りを妨げるなら・・・こうだぞ・・・・」

曹操は短刀を少し手前に引く。薄く司馬懿の首から赤い血が零れた。

「・・・分かりました。ではもう夜に訪問するのは止めることにしましょう。ですが・・・殿――」

司馬懿の双眸が妖しく光る。

――諦めたわけではございませんから――

司馬懿は捨てせりふを残し、その場から立ち去った。

「誰が、あんな奴に・・・身体を売るものかっ!!」

曹操は怒りに身を任せると、持っていた短刀を床へ叩きつけた。

短刀は勢いよく跳ね返り、曹操の頬をかすめた。



「仲達っ!!」

司馬懿はその帰り、字を呼ばれ、振り返った。司馬懿を字で呼ぶ人間などごく一部。

そこには曹操の子、曹丕がいた。

「曹丕さま・・・こんな時間に出歩いてよろしいのですか?」

曹丕は司馬懿の顔を見つめながら、笑みをこぼした。

「お前も出歩いているではないか・・・」

そう、冗談をいった。

「仲達、話がある」

曹丕は真剣な顔でそう言うと、司馬懿を伴って、自分の部屋へと歩き出した。


曹丕は部屋に入るなり、司馬懿の身体を抱きしめた。

司馬懿の口からあっ≠ニ声が漏れる。

「最近、妙な噂を小耳に挟んだ」

曹丕の手は司馬懿の服の間を割って、胸板へと進めた。

「あっ・・・お止め・・・ください・・・・」

司馬懿の制止の声も聞かずに曹丕の指は彼の身体を静かに這っていく。

「父上の部屋に・・・何用で参ったのだ?こんな時間に・・・・」

曹丕は司馬懿の首筋に唇を落としながら、様子を伺った。

が、その問いの返答はない。その口から漏れるのは戯れに対する制止の声を吐息だけだった。

「言いたくないのならば、言わなくてもよい。だが・・・お前は我がものぞ・・・・」

静かにそう、言い放つ曹丕は司馬懿の身体のラインに沿って、指と舌を這わせる。

「は・・・んっ・・・」

司馬懿の身体がビクッと震える。

曹丕の唇が司馬懿のモノを捉えるとさらに司馬懿の身体は大きく震えた。

「ふぁ・・・んん、、曹・・・・様・・・・」

司馬懿は曹丕の頭を掴み、引き離そうとするが、力がでなかった。

そんな嫌がる司馬懿を無視して、曹丕は双丘の間に指を入れ、具合を確かめた。

「ひっ・・・」

司馬懿の顔が一瞬だけ、強張った。それでも、慣れてしまったそこは、曹丕の指をすんなりと招き入れた。

「仲達・・・力を抜け・・・」

司馬懿の微かに火照った顔に目を留めると、曹丕は一気に自分の大きくなったモノを押し込んだ。

「!!!!」

身体中に感じる痛みに司馬懿は思わず、両目から涙が零れた。

それが痛みだけで流れた涙なのか、本人さえもわからなかった・・・。



――離さないぞ・・・仲達・・・――

曹丕は司馬懿の涙を唇で拭いとりながら、その身体に自分自身の跡を残す。

絶頂の瞬間、愛しい者の口から零れる名が・・・たとえ、自分の名でなくとも――

曹丕はひたすら、司馬懿を抱き続けた。

――仲達・・・お前は・・・ここしか・・・居場所がないのだから・・・――


――仲達・・・愛している・・・お前の心が・・・・ここにはなくても――






【毒草】にお気をつけください・・・・

一度、毒が体内に入れば・・・・

それは――

貴方を蝕む【薬草】となりましょう――




つづく