運命の人 (4)






――こういうのもおかしいが、俺は殿を運命の人だと思っている――

そう、語ってくれた高順の顔は幸せに溢れていた。

呂布と同じ運命を辿ることには何の迷いもなく・・・。

ただ、すべては自分の慕う者への勝利のためだけに――。

張遼は城門を開いた。

陳宮たちと話し合った結果。

城門のギィィィという音だけが、虚しく響いた。

城門が開かれると同時に曹操軍がなだれ込む。

陳宮や張遼は縄を縛られた。

「久しいな、公台」

曹操が旧友を見て、そう言った。

「・・・その先は言わないで頂きたい」

陳宮は曹操を見つめて、静かに口を開いた。

その言葉に曹操は顔色を変えていた。

「私の主は呂布様ただ一人です。それは今でも変わりません」

陳宮は曹操を見据えていた。その瞳には凛とした輝きを放っていた。

「・・・そうか」

曹操は少し残念そうだったが、近くの兵士に連れて行け。と命令した。

陳宮は立ち上がると隣にいる張遼に目を向けた。

「・・・張遼・・・殿・・・お元気で・・・・」

陳宮は名を呼んでから、静かに首を縦に一度だけ振る。

それを見た張遼はふと、陳宮と高順が重なって見えた。

その後ろ姿を見送ると張遼は涙を落とした。


「張遼・・・お前はわしに仕える気はないか?」

曹操が張遼に声をかけた。

「・・・・・・」

張遼は答えなかった。いや、答えることが出来なかった。

どうすれば、いいのか。

どうしたらいいのか・・・わからなかった。

目標を失ったような、喪失感だけが張遼の中に埋まっていた。



――いつか・・・見つかるといいな。お前の運命の人――

そう、言った高順の顔を覚えている。

自分の運命の人は高順でも、呂布でもなかった。

張遼は自分以外の者がいなくなったことで、そう思った。

――生きろ、張遼――

ふと、高順の声が聞こえた気がした。

――生きて、お前の運命の人を・・・――

「・・・高順・・・殿・・・・」

張遼の両目から、再び、涙が溢れた。

「・・・それがしは・・・投降いたします・・・」

――これで・・・いいのですね――

溢れた涙が静かにこぼれた。

「何故、泣く?」

「・・・友のために・・・泣いております・・・・」

張遼は、しずかにつぶやいた。






それから、数年後――

とある丘の上。

呂布と高順と陳宮の墓がある場所。

あの時、曹操に頼み込んで、三人の墓を作った。

立派なものではない。ただ、石が重なっておいてあるだけ。

それでも、三人が一緒にいさせてあげたかった。

そんな小さな願いだった。

張遼はその墓の前で一人立っていた。

――運命の人は見つかったか?――

風が吹き、高順の声が聞こえた。

「・・・・今なら高順殿の想いがわかります」

――そうか。やっと見つけたのだな――

張遼は笑みを浮かべながら、風の声を聞いていた。

風が吹くたびに、高順が優しく語りかける。

「三人には・・・感謝しています」

――もう、ここには来るな、張遼――

その声に張遼の声が曇った。

風が一瞬強く吹き、張遼の頬をかすめる。

そして、静かになった。

――私たちの墓参りよりも、大事なことがあるでしょう?――

陳宮の声も風に乗って聞こえてきた。

高順と陳宮の姿が目に浮かぶ。

何故か、笑っているように感じる。

――長生きしろ、張遼――

そして、呂布の声。

その三人の声と共に風が張遼の身体を通り抜けた。

心地よい感触があった。

風はしばらく吹き、そして止んだ。

張遼は笑みをこぼしながら、その場を後にした。

――がんばれよ、張遼――

風がそっと、立ち去っていく友の背中を見つめ続けていた。

フッ・・・と高順と呂布と陳宮の姿がぼやけて見えていた。


その後、張遼は一度もそこを訪れることはなかった。












――貴殿が張遼殿ですか――

張遼の前に現れた一人の男。

――それがしは除晃と申す――

武の極みを目指しているらしい。

手を差し伸べてきた。

張遼はそれを握手で答えた。

その瞬間、張遼の身体に電流が走った。

――張遼殿とはいいお付き合いが出来そうですな――

除晃の笑顔がとても、張遼には眩しく見えた。



――お前にも見つかるといいな。運命の人が――

そう言われたとき、張遼にはわからなかった。

だが、今ならわかる。

――高順殿。今のそれがしも・・・・幸せそうに見えますか――


以前の・・・貴方と同じように・・・・







おわり





これを考えたのは、北方三国志の影響です。
似たような場面があるかも(汗)
高順はもともと、無双した時に好きだったんですが、
どこが?といわれそうですけど
曹操に捕まったときに何も言わずに潔く死んだとか。
その一文でいっちゃいました(汗)
裏切り者が一杯いる中で、目を張りましたね。
そんなんで、こんな話を・・・。
最後は少し、以前と違っています。
除晃さん出してます。
本当は殿(曹操)にしてたんですけど。
どうでしょうか?








 

続けて【外伝】を読む場合は<次ページをクリック>