狐と狸  






まだ、完全に夜が明けていない…とある日。

いつものようにイルカはカカシを家に招待し、二人っきりで過ごす日々が

ゆっくりと訪れていく――。

『あ…まだ、こんな時間…』

ふと、イルカは目が覚めた。

隣には静かに寝息をたてるカカシが眠る。

『よく寝てる…めずらしい』

上忍であるカカシは熟睡することがない。

忍びとしての本能か習性なのだろうが、微量の空気の動きや気配ですぐに目がさめる。

本来ならば…。

イルカよりも先に寝たこともないし、寝顔さえもイルカはこんなにしっかりと見ることも滅多にない。

『こんな顔…するんだ。カカシ先生…』

そっと、柔らかそうな銀髪に触れてみる。

ふわり

――あ、柔らかい――

あまりの柔らかさに、そっと触れるだけじゃもったいない気がした。

軽く頭をたたいてみる。

ポンポン…

フワフワ…

フサフサ――

何だか楽しい。

今度は撫でてみる。

やっぱりいい感触。

――こんなに触っても何で起きないんだろう…――

イルカはカカシの寝顔を見ながら、うれしくなる。

安心して寝ていると思うと顔が何だか、ニヤけてしまう。

ついでに普段見れない寝顔も可愛いと思う。

頭に置いた手を頬に向ける。

――絶対に起きちゃうよなぁ…――

そう思っても。

ぷにっ☆

「あれ?起きない」

頬に指でぷにぷにしてみても、カカシは変わらない寝息をたてていた。

ぷにぷに

柔らかい。

何回もフニフニ。

ふっ…と。イルカはカカシの形のいい唇に視線が止まった。

ドキッ

『…カカシ先生…』

イルカは頬にのばした手を、指を静かに動かした。

それを少しずつカカシの唇に近づけた。

――どんな感触なんだろう――

イルカはドキドキする心を抑えながら、指をそっと、その唇にふれた。

その瞬間。

ぐいっ

「――!――」

寝ていたカカシの腕がイルカの腕をつかんで引き寄せた。

目の前にカカシの顔が間近に映し出された。

「イルカ先生、何をしてたの?」

カカシはニコニコと笑みを浮かべた。

「い…いえ、べ…別に、何も…」

イルカは突然のことで何が何だかわからず、頭が真っ白になり、

恥ずかしさで真っ赤になった顔を伏せた。

「恥ずかしがらなくていいから、ねっ。何してたの?」

カカシはやさしくいった。

「そ…それよりも…いつから、起きていたのですか?」

心音が鳴り止まない中、イルカは言葉を絞りだすようにたずねた。

カカシはニコニコしながら、

「最初(はじめ)からだけど。」

うれしそうに満面な笑みをこぼした。

「な……!」

イルカは絶句した。

騙された。

ボンッ

イルカは再び、顔を赤く染めた。

当の本人に自分があんなことをしていたのがバレていたと思うと、

恥ずかしくて死にそうな思いだった。

「可愛かったよ…」

カカシはつぶやくと、イルカの首の後ろに腕をまわし、そのまま自分の方に引き寄せた。

二人の唇が重なり、窓から差し込む朝日がカカシとイルカを包み込んだ。

「好きです、イルカ先生。貴方のすべてが愛しいです」

「カカシ先生…俺も…」










後日談

何故か、カカシから朝からのろけ話を聞かされているアスマだが、

半分ウンザリとした表情でききながす。

アスマは二人が長続きしているのが意外だったらしいが、毎日こうだとムカツク。

「朝から、イルカ先生は大胆で…」

カカシは崩れて戻らない顔で話を続けている。

「やっぱ、お前とどめさしてやろうか?」

だんだんイライラもつのるアスマは放っておこうと思った。

そこへ、タイミングよくイルカが歩いてきた。

「あ、カカシ先生、アスマ先生。今日も暑いですね」

イルカは挨拶をして、去っていった。

「あ…イルカ先生」

いろいろと朝の余韻もあって期待していた分、淋しかったカカシであった。

アスマが隣で今までの仕返しだといわんばかりに大笑いした。




おわる。