KIOKI 〜記憶〜 2




曹丕は司馬懿の杯に酒をどんどん注いでいく。

突然、司馬懿が曹丕の部屋にやってきて、怪我が完治したと報告に来た。

二人はそんな流れで、司馬懿の全快祝いをすることになった。

「曹丕さま、飲みすぎではありませんか?」

重ねていく、杯の数の速さに司馬懿は心配した。

「まだ、酔ったうちにはいらぬ。お前もどんどん飲め」

以前の司馬懿なら、この位では何も言わない。

もっと、ベロンベロンになってから、そう言ってくるのだ。

「今日は朝まで飲み明かすぞ。仲達」

「怪我が治ったというのに、今度は二日酔いにさせるおつもりですか」

司馬懿はそう、言いつつも顔は嬉しそうだった。

曹丕も楽しかった。

やっぱり目の前にいるのは司馬懿なのだ・・・と改めて感じた。

酒が入っているせいか、違和感はあまり気にしなくなった。

彼の顔、声、姿を見ているだけで、曹丕は心が躍る。

何ヶ月かぶりかに見るの司馬懿なのだから・・・。

「そういえば、曹丕さまは・・・いつも私のことを字でお呼びしますね」

司馬懿が思い出したように口を開く。

「ん、嫌なのか。仲達?」

「・・・・いえ、嬉しいと・・・・思っております」

司馬懿は語尾を濁らせ、顔を赤く染めて言った。

曹丕はその司馬懿の行動、言動に少し戸惑った。

記憶を失う前の彼でも滅多にそんな語尾を濁らしたり、紅く染めたり、しない。

「曹丕さま、私・・・なにか、おかしなことを申しましたでしょうか?」

司馬懿が戸惑う、曹丕に心配して声をかけた。

記憶を失う前と後の司馬懿。

表情も言葉も、微妙に違う。

同じ司馬懿なのに、何処かが変わっていた。

そんな、知らない司馬懿に曹丕は笑みをこぼした。

――もっと、知りたい――

自分の知らない彼を。

前よりもっと、それ以上に好きになるように・・・。

そして、困らせて、その表情を見てみたいと・・・思った。

「仲達」

曹丕はつぶやくように、名を呼ぶと。

身を乗り出し、司馬懿の唇に自分のそれを重ねた。

「ん、ん・・・」

司馬懿の困惑な顔。

そんな顔でも可愛い。もっと見たい。困らせたい。

曹丕はさらに、司馬懿の口を割って、その中に舌を入れた。

「ふ・・・ぅふ・・・ん・・・」

司馬懿の両目は開かれている。

両腕は曹丕を引き離そうと肩を掴んでいる。

曹丕は腕を伸ばし、司馬懿を引き寄せた。

彼の膝が台の上に乗せられた。

必然的に上に置いてあった杯や酒は勢いよく

台から音を立てて、床に転がった。

それでも曹丕は司馬懿を離そうとはしなかった。

しばらくして、司馬懿は唇を開放された。

が、しかし、一息つく間もなく首筋に愛撫を受けた。

「あっ、や、止めてくだ・・・曹丕さま・・・」

抵抗する司馬懿を離すまいと曹丕はガッシリと抱きかかえている。

曹丕は止められなかった。

ただ、困らせるだけだった。

それが、彼の心に火をつけた。

司馬懿の肌の感触、温もり、全てが曹丕の理性を吹っ飛ばした。

――抱きたい――

今の曹丕の心はそれだけだった。

欲求は止まらない――。

もっと司馬懿を感じていたかった。

この後、どうなるのか・・・そんなことさえ、考えていなかった。

「仲達・・・力を抜け・・・」

曹丕はそう言うと、司馬懿の身体を抱え直す。

抵抗さえ、ままならない司馬懿は肩で息を吐きながら、ぐったりとしていた。

ズッ

鈍い音とともに、司馬懿の身体に痛みがはしった。

「――っ!!」

思わず、司馬懿は身体を仰け反ったが、曹丕の両腕がそれを許さなかった。

曹丕は激しく動きながら、司馬懿の身体に唇を再び落とす。

「仲達――」

「はぁ・・・んン・・そうひ・・・さま・・・」

司馬懿の両腕は曹丕の背中に絡まっている。

痛みに耐えかね、その背中に爪あとを残しながら、

二人の身体は重なり合っていた。

「仲達・・・子桓・・と呼べ」

曹丕は息を整いながら、愛しい人に言った。

「あ、ぁ・・・し、子桓・・・さま・・・・」

司馬懿の身体が震えた。

「仲達・・・」

曹丕は唇を重ね、そして・・・

――愛している――

静かに、耳元でささやいた。




曹丕は寝台の上に寝かせた司馬懿を見て、肩を落とした。

抱いたことに後悔はなかった。

いずれ、こうなったのだ、と少なからず思っていた。

最悪のことを考えると、やはり怖かった。

嫌われるのはまだ、いい方だと思う。

ただ、司馬懿がショックで立ち直れなくなるのではないか。

そう思うと怖かった。

思ったところで、もう遅い。

抱いてしまった。ほとんど無理やりに――

そっと、司馬懿の髪に触れてみる。

柔らかい髪・・・。

「仲達・・・・」

つぶやいても見る・・・。

「・・・子桓・・・さま?」

司馬懿がうっすらと目を開く。

ドキドキする曹丕見て、司馬懿はフッ≠ニ笑みを浮かべた。

「・・・初めてでしたね。あの言葉を言ってくださいましたのは・・・」

――愛している――

曹丕の脳裏にその言葉がよみがえる。

「・・・仲達・・・?」

曹丕はその司馬懿の言葉に違和感を感じた。

――初めて・・・言った?――

「・・・仲達・・・き・・・記憶・・・が?」

――戻ったのか・・・。

そう聞きたいが、言葉が続かなかった。

司馬懿は小さくうなずいた。

「子桓さま・・・もう一度・・・言ってくれませんか?」

曹丕はクシャクシャな顔で司馬懿を抱きしめると

――仲達・・・愛している――

そう、言った。

司馬懿も曹丕の背中に腕を回すと抱きしめ返した。

「子桓さま・・・私めも・・・愛しております」

二人は静かに唇を重ねた。


おわり