曹孟徳大変身 1





――ん・・・ここは・・・何処だ?――

曹操はふと、目を覚ました。

太陽の光が眩しく彼を照らし、曹操は思わず目をそらした。

林か森の中だと思われる、その場所は見た限りでは危険はなさそうだった。

曹操は静かに起き上がると、自分に何が起きたのか記憶を探った。

――確か・・・――

曹仁と曹洪と狩りをしていたような・・・気がするが・・・思い出せない――。

「とりあえず、移動するか」

落ち着きながら、思い出せない記憶を再び、探ろうとするが、やはり思い出せなかった。

別に頭部に痛みがないため、誰かに頭を殴られての記憶喪失ということでもなさそうだ。

自分の名前も曹仁や曹洪の顔も名前も覚えている。その可能性は低い・・・。

「一時的なものか・・・?」

そう安易な答えをだし、深く考えるのをやめた曹操であったが・・・。

ふと。

何となく、違和感を感じていた。

――なんだ・・・?――

それが何か気づくまでそんなに時間はかからなかった。

「ななななななな・・・・・何だっ・・・これはっっっ!!!!!」

曹操の身体・・・に胸がある。

当然といえば当然だが・・・膨らみがある・・・・。

とりあえず、胸を触ってみる。

服の中をのぞいて見る。

曹操の顔がみるみる青ざめていく――。

「お・・・女に・・・なっているではないかっ!!」

曹操の身体は女性体になっていた。

しかも・・・なかなかのプロポーション☆

さすがに曹操もこの時ばかりはあせった。

――まさか・・・こんなことになっているとは・・・このままでは女も抱けないではないかっ!!

と、いうことは・・・抱く側から抱かれる側になるのかっ!
  
イヤだ。夏侯惇ならいざ知らず、他人に抱かれるのはイヤだ――

心配するトコロが少し違うが、曹操は曹操なりに事態を飲み込みはじめた。

「殿?」

林の向こうから曹洪の声が聞こえた。

どうやら探しにきたようで、草を踏む足音からして、曹仁も一緒のようだ。

「まずいのぉ〜」

こんな姿を見られるのは主君として恥ずかしい。いや、威厳をなくしてしまうかもしれない。

しかし、このままでもまずい。

「殿、ここにおられましたか。そろそろ日もくれましょう」

曹洪が近づく。

近づくにつれ、何か違和感を覚える。

言葉ではいい表せないが、そんな気がする。

曹仁も二人の様子がおかしいことにきづき、ちかづく。

「殿、いかがいたしました?」

「・・・笑うでないぞ。女になってしまった・・・」

曹洪と曹仁は一瞬、何を言っていたのかわからなかった。

互いの顔を見合わせ、再び、曹操の方へむけた。

「わからぬか、ほれ。」

曹操はポカンとしている二人に胸を寄せた。

冷静に考える思考よりも、そのしぐさが強烈すぎたのか、二人はひっくりかえってしまった。


しばらくして、二人は正気に戻った。

「と・・・殿。これは一体?」

かろうじて、曹仁が口を開いた。

服のせいもあって、凝視しないと胸のふくらみは気づかない。

「うむ、わしにもさっぱりわからんのだ。気がついたらこうなっておった・・・」

三人は持てる知識を振り絞ったが、経験がない事態上に、あまりいい案は浮かばない。

ますます、日は暮れるばかりだったので、一行は戻ることになった。

「・・・戻りたくないのぉ・・・」

ボソッと愚痴をこぼした曹操の足取りは重たかった。

司馬懿にバレたりでもすれば、何をされるかわかったものではない。

悪知恵だけは働く男だけに、後々弱みを握られかねない。

――あやつだけには絶対にバレないようにせねば・・・――

曹操は心に誓った。


曹孟徳、不本意ながら狩りの途中で女子になる。

身体は女子。頭は曹操。

はたして、曹操はこの危機を乗り越えられるのか。


日が落ちた頃、曹操と曹仁、曹洪は帰路についた。

途中、一言も口を開くことのなかった三人の心中は複雑だった。

本来ならば、曹操を守るべき立場にあった曹仁と曹洪がいたにもかかわらず、

曹操がこのような姿に変わり果てたということが諸侯や武将に知れたりでもするば・・・

軽くて減給、いや降格か・・・それとも――そう考えると二人も帰るのが嫌だった。

「孟徳っ!!」

不運は重なる。

遅くなった三人を出迎えた夏侯惇を視野にいれながら、曹操はため息をついた。

「おぉ、今戻ったぞ、元譲」

いつもの曹操であれば、夏侯惇の出迎えを素直に喜んだだろうが、

今の曹操にはそれすらお世辞にも喜べなかった。が、平静を装い、無理して言葉を返した。

「ん、どうかしたのか、孟徳?」

いつもと違う曹操に夏侯惇が気遣った。

曹操は曹仁と曹洪に馬を託すと、夏侯惇の腕をつかむと自室までひっぱった。

途中で夏侯惇は理由を聞こうとしたが、曹操は部屋につくまで無視した。


部屋に入るなり、夏侯惇は曹操に理由をきいた。

「どうしたんだ、孟徳!」

「・・・すまんな、元譲。どうしても二人きりになりたかったんでな・・・」

その曹操の言葉に夏侯惇は一瞬、ドッキリとした。

「も、孟徳、お前の気持ちはうれしいが・・・」

曹操は夏侯惇の言葉を無視して、夏侯惇の手をつかんだ。

「元譲、実はな・・・わしは女になってしまったのじゃ・・・」

胸に夏侯惇の手を押し当て、曹操は恥ずかしそうにいった。

その服の上からでもふくらみの感触が伝わる。

「・・・孟徳・・・これは一体・・・?」

「わしにもさっぱりじゃ。それよりもこのことは他言無用じゃ、よいな?」

とくに、司馬懿にはバレないようにな・・・。

と、曹操は念を押した。

夏侯惇は頭の中が混乱していた。

好きな曹操が女になっていた。

いや、なってしまったという。

夏侯惇の手が曹操の胸に押し当てられている。

そう考えると、頭がグルグルと回る。

「・・・すまん、孟徳・・・」

夏侯惇はつぶやくと、しずかにその場に倒れた。

「・・・まったく、だらしがないのぉ、元譲は。別にはじめてではなかろうに・・・」

気を失った夏侯惇を見つめ、曹操は苦笑いを浮かべた。

曹操は夏侯惇を寝台に寝かせ、自分もその隣にもぐった。

――明日、目が覚めれば、元にもどっておろう・・・――

悪い夢。

曹操はそう願いつつ、深い眠りへとはいっていった。



つづく。