夢見たもの







君が亡くなる少し前の日に、夢を見た。

それは不思議な不思議な夢だった。

君と私とが手を取り合って、白い霧の向こうへ向かって歩いていた。

突如、君は手を放して、一人で行こうとした。

私は君の名を呼んで、呼び止めた。

君はいつもと変わらない笑みを浮かべていた。

『心配すんなって、周瑜。』

そう言って、見えなくなった。



そこで、私は目が覚めた。

今でもはっきりと覚えている夢。

君がいなくなっても、時折思い出す。


――何を心配するなって?――


その夢の中の最後の君の言葉に自嘲する。

「君はいつもそうだった・・・」

一人で前へ前へと進む。大きい夢と誇りを胸に抱いて。

それをいつも後ろから追いかける私がいた。

「まったく、今度は追われる身になったではないか・・・」

船の上で長江の流れを見つめながら、くすっと笑みをこぼした。

都督として、曹操軍を赤壁で向い撃つ準備は整っていた。

あとは、時だけだった。

火計――

それが成功すれば、曹操など、恐れない。

呉の水軍が急ごしらえの水軍に負けるはずはない。

ホウ統の連環の計も進んでいる様子。

だが、不安だった。

君がいないだけで、こんなにも不安になる自分がゆるせない。

君となら、どこまでも行ける気がした。

曹操を倒し、天下を治めることも夢ではないと思っていた。

「孫策、私はこんなにも弱いのか・・・君がいないだけで・・・」

少し、風が出てきた気がする。

少し肌寒い。


――周瑜、心配すんなっていってんだろ?――


「孫策?」

いないはずの君の声が聞こえた。

はっきりと。

何故か、不安が解けていく。

近くに君がいる気がする。

気のせいでも幻でもいい。

君と一緒なら、不安はない。

この長江を越えて、大空へと羽ばたく。


『いこうぜ、周瑜。俺たちの天下へ』


そう言った君は輝き、眩しかった。

だから、君の後ろを追いかけるのも楽しかった。

君とともに、行こう。

たとえ、君の姿がなくても・・・

君の声はすぐ側にある。

君の想いも夢も、私とともにある。

風よ、吹け。

この赤壁の地に私たちの夢を乗せて、吹け。

私は君とともにある。




久しぶりに夢をみた。

不思議な不思議な夢を。

君と手を取り合って、白い霧の向こうへと歩く君と私の姿が見えた。


――周瑜、でっかい夢を手にいれようぜ――


――君とならば、どこまでも共に行こう――


二人は満面な笑みを浮かべていた。




『だから、心配すんなっていっただろ?』



遠くで風の音にまぎれて、そんな声が聞こえた。