この道の先








――魏延殿・・・運命と言うものを信じるかね――


ふいに、ホウ統は部屋に訪れていた、魏延にそんな言葉を投げかけた。

意味のない言葉や質問をどうして言ってしまったのか、

ホウ統自身が分らずに驚いていた。

自分自身、【運命】というものに逆らえずにいるからなのか。

諸葛亮という奇才な人物と同じ時代に生まれたのも【運命】なのか。

劉備という心引かれる人物と出合ったのも【運命】なのだろう。

そして・・・魏延という、武将になりうる人物を得たのも【運命】なのか・・・。

【運命】という一言で済ませてしまえば、何てすごく簡単な言葉。

重い言葉のようでいて、掴みどころのない形のない曖昧な言葉。


――魏延殿。【運命】を信じるかね?――


そんな曖昧な言葉をいきなり投げかけられて、魏延は戸惑った。

神秘的で何か魅かれる言葉。

それでも・・・魏延にはどうでもよかった。

自分にとって不利なことすべて、【運命】のせいにするのは違う気がした。

「運命ッテ何ダ・・・?」

思わず、聞き返してしまった。


しばらく。ホウ統は魏延の顔を見つめていたが、声を上げて笑い出した。

「いやぁ〜流石だねぇ〜そう返ってくるとは思わなかったよ・・・」

魏延は大笑いしているホウ統を不思議そうに見つめながら、

冷たくなったお茶を口に含んだ。

しばらく、ホウ統は笑い止まらなかったらしい。




――運命ッテ何ダ・・・――


結局・・・その答えは返ってはこなかった。

ホウ統も。

劉備も。

大切な人が次々と自分の周りから姿を消していく。

その全てが【運命】というのならば。

魏延・・・ただ一人生きながらえているのも・・・【運命】というのだろうか。



――魏延殿。【運命】を信じるかね?――



今なら、答えを出せるかも知れない。

孤独を背負った狂戦士の・・・【運命】さえも。



――ワレ・・・行ク・・・コノ身果テルマデ・・・彼ラの想イト共ニ・・・――



この【運命】さえ乗り越えて・・・

我が信念と道を貫く――

それが、魏延ただ独り残された・・・者の・・・【運命】――





おわり



この二人。私が書くとどうも暗くなってしまって。
でも、書きやすかった。
これで、孔明が出てきたら面白かっただろうな。とか。