意地っ張り





「甘寧ぃぃぃ!!!」

凌統は叫んだ。

父、凌操を殺した相手にむかって。

凌統は群がる敵軍の中、一人突っ走って行った。

武器を振り下ろし、ただ・・・父の遺骸の元へと。

目の前に甘寧の姿が映し出される。

凌統の心にさらに憎しみが増した。

「お前にこの俺が倒せるかよ。へへっ」

甘寧は武器を手に、風のようにむかってくる凌統を見つめた。

足元には亡き凌操の姿もあった。

「父上を・・・帰してもらうぞっ!!」

凌統の武器と甘寧の武器が火花を散らして交錯する。

凌統は痺れる腕を我慢して、渾身の力で相手の武器を押し返した。

「!」

甘寧は思わず、後ろへと下がった。

その隙に凌統は父の身体を抱えた。

「逃げんのかよ!」

甘寧が叫んだ。

「今は引いといてやる。だが、俺はお前を許さない」

凌統は思いっきり、甘寧を睨んだ。


それが・・・あいつ――甘寧との最悪の出会いだった。




「え、今なんて・・・?」

凌統は孫権に向かって、聞き返した。

「甘寧という黄祖の部下が帰順してくる。と言ったのだ」

凌統はその言葉に軽い眩暈に襲われ、世界が真っ白になった。

甘寧は父の仇である。

その仇が仲間になる。

凌統は複雑な思いだった。

「お前の気持ち、分らないわけでもない。

だが、あの甘寧は我が軍には必要なのだ・・・」

孫権はなだめるようにいった。

――何だそりゃ――

凌統はそう思った。

確かに、あいつを欲しがる理由も分かる。

数少ない将となりうる人材なのだから。

でも・・・。

甘寧のことを考えれば考えるほど、憎しみが募る。

凌統は拳をワナワナ震わせながら、押し黙っていた。

「凌統、お前にはつらい思いをさせるが・・・」

「俺はっ・・・殿が認めても・・・俺は認めないですよ。

あいつは・・・父上を殺した奴なんだっ!」

凌統は孫権の言葉を遮るとそのまま。その場から立ち去った。

「凌統っ!!」

孫権の声も彼の耳には届かなかった。


孫権は隣に頭を痛くしている呂蒙に顔を向けた。

「・・・どうしたものか・・・」

孫権は甘寧を自分に薦めた呂蒙に助けをもとめるように見つめた。

その視線が痛かったのか、呂蒙はため息を深く吐いた。

「わかりました。行けばよろしいのですね。殿・・・」

呂蒙は孫権に甘寧を薦めた責任もあり、仕方ない。といった様子で、凌統の後を追った。




凌統はすぐに見つかった。

河のほとりで寝そべっていた。

「隣・・・いいか?」

呂蒙に気がついた凌統は何もいわずにただ、彼の様子を伺っていた。

呂蒙は返事がない凌統の隣に腰掛けた。

しばらく、無言の空気のなか、ただ、時だけが流れる。

ふいに。

「・・・俺には・・・無理かもしんない・・・」

凌統は空を見つめながら、静かにいった。

そんな一言に呂蒙は同じように空を見上げた。

「凌統。それでいいんじゃないか。今は・・・」

以外な呂蒙の言葉に凌統は驚いて彼の顔を見つめた。

「すぐに仲良くなれるものじゃないし、ずっと一緒に共にした仲間でさえ、好き嫌いはある。

それに、しばらく甘寧と一緒にいれば、彼の人となりを知るかもしれないしな。」

「冗談でしょ? お金をつまれても勘弁・・・」

凌統は寝そべっていた体を起こし、立ち上がった。

「俺は・・・あの日を忘れたりはしない」

彼はそういって、その場を立ち去った。

一人残された呂蒙は複雑な表情で凌統の背をみつめていた。

「・・・簡単にやられる甘寧じゃないとは思うが・・・」





庭が見える渡り廊下を甘寧は歩いている。

そこへ。

「お前、呉へ降るんだって?」

凌統が待ち伏せしていた。

「お前・・・あん時の・・・」

初めてあった時の場面が二人の脳裏に浮かぶ。

一人敵陣の中を父の亡骸を取り戻しにきた凌統。

黄祖に不満を抱きながら、味方を守るために戦った甘寧。

「よく、俺の前に顔を見せられたな。甘寧・・・」

凌統の手が腰の棍を掴む。

「はん。やろうってのか? そういえば、お前とは勝負がお預けだったな」

甘寧もまた、自分の剣へと手をのばす。

キィ・・・ン

一瞬で二人の武器が火花を散らした。

「何故、父上を・・・殺した!」

「敵だったからだろ。当たり前なこと聞いてんじゃねー!」

甘寧は力任せに凌統の棍を押しのけた。

そのまま、凌統は後ろへと下がる。

再び、構えようとしたとき、草むらからザザザと音がし、黒い身なりの男が飛び出してきた。

「こいつらも、お前の差し金か?」

甘寧は数十人の黒い男を見渡した。

「冗談だろ? こんなの使うなんて、趣味悪すぎだっつうの」

二人は黒い男に切りかかり、次々と倒していった。

いつの間にか、甘寧と背中合わせに戦っていた。

「やるじゃねーか。凌統」

「あんたもね」

二人は何故か、笑みをこぼしていた。

最後の一人を二人で倒すと、騒ぎを聞いた呂蒙がやってきた。

「どうした?」

「どうもこうしたもねーよ。こいつら、突然沸いてきたぜ」

「大方、殿を狙った間者じゃないの?」

肩がくっつくくらいに立つ二人に呂蒙は無意識に笑みをこぼした。

「お前たち、いつから仲良しになったんだ?」

と付け加えた。

無論、二人が反論したのは言うまでもないが。

何だかんだといっても仲がよさそうと見えてしまう呂蒙であった。









いがみ合ってるというか、仲が悪いようで
実は互いに分かりきっているという二人が好きです。
そんな感じを書こうとしたのですが・・・(汗)