守りたいもの







――殿・・・お慕い申しております・・・

貴方となら・・・この命・・・惜しくない――




「高順どの。」

城の見回りを一通りに済ませた高順は馬蔵に馬をつなぎ、

次の訓練のために兵舎に向かおうとしていた。

そこへ、陳宮が声をかけた。

「陳宮どの。」

二人は呂布の側にずっと仕えている旧臣である。

董卓が存命していた時は呂布も彼の元にいたためか、

董卓の武将が呂布の配下になっていたりしたが、

今や、呂布の配下の武将といえば、この二人を中心になり、

張遼や臧覇などがいた。

戦は高順が、政治は陳宮が担っているといってもいい。

そんな二人でも、仲はよくない。

互いに呂布への想いが強く、当たり前だが考え方も違う。

二人に共通するものがないのも要因の一つだが、

それでも常に呂布のため。という信念のもと、

一つにまとまっているのもたしかであった。

「陳宮どの。いかがなされた?」

陳宮は用がないと高順の元へ訪れることは滅多にない。

高順もそれを知っていたので、何の用か。と

思い当たることを思い出してみたりしたが、検討がつかなかった。

「殿がお呼びです」

陳宮が一言いった。

「殿が?しかし・・・これから調練がある故、お断りしてもらいたいのだが・・・」

「・・・無理でしょうな。」

陳宮はため息を吐くと、そういった。

高順も呂布の人となりをしっているため、苦笑いを浮かべた。

「・・・では、それがしの代わりを立てなければなるまい・・・」

「それは私の方でやっておきましょう。

高順どのは殿の機嫌が悪くならない前にお会いになった方がいいでしょう。」

高順はうなずくと、その場から離れようとした。すると、陳宮が声をひそめた。

「高順どの、最近貴方と殿との間に色々な噂が流れています。

貴方から殿に自重なさるようにいってくれませんか?」

高順も聞き及んでいる噂。

呂布が高順をよく部屋に呼び出すため、二人はデキているとか、いい加減な噂が

世を騒がせていた。無論、そんなものはデマであるが。

陳宮に言わせれば、呂布の威厳が損なわれる。と思っているのだろう。

「それがしからも頼んでみるが、あまり期待はしないほうがよかろう」

陳宮の言葉が聞き入れないのであれば、高順が言ったところで変わらない。

二人は重い空気の中、ため息を吐いた。



高順は呂布の部屋にはいった。

入るなり、杯が飛んできて、高順の頬をかすめた。

「遅いぞ、高順。早く来いといったはずだ」

「申し訳ございません。それよりも何か御用ですか?」

高順は頭を下げた。

呂布はすでに酒が回っているらしく、頬をほんのりと赤く染めている。

「ふん、用がなければ、呼んでいかんのか。まぁいい。酒に付き合え」

高順は呂布の隣に座った。並々と杯に酒が注がれ、一気にあおった。

「相変わらず、いい飲みっぷりだな。高順」

「たまには・・・張遼をお呼びしてはいかがですか?」

その高順の言葉に呂布の眉がピクッと動いた。

「あいつは小言がうるさくてな。これ以上は駄目だとか。

陳宮も同じだ。二人とも融通がきかぬわ。」

「二人とも、殿を心配しておられるからでしょう。」

高順はそんな二人を思い描きながら、笑みをこぼした。

「その点、お前は二人ほど、うるさくないからな。それに・・・」

呂布は酒をグイッと飲み干し、高順の方を見た。

鬼神、呂布。今の彼からは想像がつかないくらい雰囲気が違う。

ただ、無垢な子供のような。

高順は思わず見とれていた。

ふと、唇に柔らかい感触が触れてきた。

「と・・・殿?」

「お前も嫌ではなかろう?」

カアーと顔が赤くなるのがわかる。

男に唇を重ねられて赤くなる自分が高順には恥ずかしく感じた。

「お戯れは・・・おやめください」


――殿・・・お慕い申しております――


呂布はからかうようにははは。と笑っていた。

「そういうな。高順。俺は嫌いではないぞ、お前には本当に感謝しているのだからな」

そっと、呂布の手が高順の肩にかかる。

それだけで、ふいに・・・意識してしまう高順だった。


――呂布殿・・・この命・・・貴方のためになら・・・・――


「しかし・・・こんなことが、陳宮どのに知られれば・・・」

「ふっ。かまうものか。言いたいやつにはいわせておけばいい・・・」

呂布は酒を高順の杯に注ぎながら、自分もあおる。

「殿・・・」

高順は手に持つ杯の中の酒に映る自分の顔を見ながら、

気恥ずかしさとほのかに沸き起こる期待と不安で押し黙ってしまった。

「高順・・・」

ふと、名を呼ばれ、無意識に面をあげた。

ふっ。

と、高順の身体が大きな腕に包まれた。

「・・・ずっと・・・俺の側にいてくれ・・・・」

呂布は高順を静かに抱きしめながら、耳元でつぶやいた。

高順はそっと、呂布の腕に自分の手をそえると、

「・・・殿・・・」



――お慕い申しております――

――たとえ・・・この身がどうなろうと――



「高順・・・俺はお前を失いたくない・・・」

高順は微笑みながら、ゆっくりと瞳を閉じた。



「・・・殿・・・ずっと・・・お側におります」



――この命・・・尽きるまで――

――どこまでも・・・貴方とともに――







おわり





何か、タイトルと違う内容になってしまったぽい(汗)
でも。呂布はきっと高順も陳宮も張遼も失いたくはなかったのかな?
と。おもってしまったりして。
つうか、呂布×高順なんてマイナーだな。