願い事…
「跡部、見てみて」
跡部は部室に入るなり、ジローに声をかけられた。
普段寝ているジローが珍しく起きていた。
しかも興奮状態。
跡部はジローが指差す方向を見た。
そこには、見慣れないもの。
机の上に小さい笹。
「何だ、これは・・・?」
跡部は小さくつぶやく。
「えぇ、跡部。笹知らないの?」
「んなこと、あるかぃ!」
ジローのボケに忍足がすかさず、ツッコミを入れた。
「何、漫才してんだよ、てめぇーらはっ!!」
少し不機嫌になっていく、跡部に笹に短冊をつけ終えた岳人が振り向いた。
「跡部もやらない?」
岳人は手に持つ短冊を跡部に見せた。
「ふっ、俺はそんな低レベルなことをしなくても、願いは叶うんだよ」
「この笹、持ってきたの。侑士だぜ」
その岳人の言葉に跡部の身体が固まった。
その固まった顔を忍足に向けた。
「ほら、俺結構、こういうの好きなんや。願いが叶ったとき、うれしいやろ?」
テレながら、話す忍足に跡部は大きくため息を吐いた。
「ほら、ジロー、向日もとっとと練習にいけっ!!」
跡部が怒鳴ったので、二人は部室を一目散に出て行った。
「跡部、こういうの嫌い?」
笹を見ていた跡部に忍足は跡部に背後から声をかけた。跡部は後ろを振り向かずに、
「・・・嫌いじゃねーよ。でもな・・・・」
跡部はそこまでいうと、後ろにいる忍足の方を向いた。
「俺様の願い事の一つはもう叶ったんだよ」
そういうと、忍足を引き寄せた。
「うわっ!」
その突然の出来事に忍足の身体は跡部の身体に埋もれた。
「忍足、ずっと俺の側にいろ。それが今の俺の願い事だ・・・」
跡部はそういって、忍足をそのままの体勢で抱きしめた。
忍足の身体がかぁ〜と熱くなっていった。
しばらく抱き合ったままで・・・・
「跡部・・・・」
ふと、忍足が声をだした。
「何だよ」
「願い事は言ったら叶わへん・・・でも・・・」
…――忍足、お前の願い事は何だ――…
――秘密や――――
跡部と忍足の二人の後ろの笹が一瞬、風を受けてゆれた。
『跡部がずっとそばにいてくれますように――』
ゆれた短冊の一つに、そう書かれていたのを二人は知らなかった。
後日談。
部活が終わり、忍足と跡部は部室に二人っきりだった。
ジローと岳人はすでに帰ったあと。跡部は笹に目を移していた。
「跡部、はんまは興味あるんとちゃうか?」
「バーカ、言ってろよ」
跡部は先に部室を出る忍足の背を見つめながら、そう言った。
――相変わらず、鈍い奴だな――
跡部はふっと笑みをこぼし、忍足の後を追いかけた。
「おい、忍足、来年から、もう笹なんて持ってくるな」
「え、何でや。跡部俺から楽しみを奪う気やな・・・」
そんな楽しそうな声が辺りを包んでいた。
短冊は揺れていた。
『跡部と侑ちゃんが別れますように』
『侑士が俺に惹かれますように』
誰が書いたか、一目瞭然だったが・・・。
その隣の一際大きな短冊にはこう書かれていた。
『忍足は俺様のものだ。誰にも渡さないぜ。あきらめな』
おわる