一枚上手な…
――味な真似してんじゃ、ねーよ――
忍足、今日付き合ってやるよ。好きなところ、何処でもな・・・。
放課後。
そう、珍しく跡部がいった。
今日は二月二十四日、バレンタインデーの日。
ただの偶然だと思った。跡部の気まぐれだと、始めは思っていた。
突然、そう言われて、ほな、行こうか。など、いくわけない。
しかし、忍足はふと、思い出した。見たい映画があったことを。
――跡部、見たい映画があるんやけど――
――いいぜ――
跡部は即答した。
一度、私服に着替えてから、待ち合わせた。
跡部とどこか行くのはよくある。
その大半が強制的だったが、それでも忍足は嬉しかった。
跡部が好きだったから。
同性であるにも関わらず、惚れてしまった。
彼に惚れたのはテニスだった。
自分にはない、攻撃的でありながら、綺麗で鮮やかなテニス。
氷帝に来て、一番にほれ込んだ。
本当にあれこそ、一目ぼれだった。
しかし、性格は最悪だった。
人をこき使う。
命令するのは朝飯前。
おまけに手のつけようがないわがままで口が悪い。
いいところがない。と、思っていた。
だが、テニス部で一緒にいる内に、感づいてしまった。
本当は優しいのだと・・・。
「遅かったじゃねーの、俺を待たせるなんていい度胸だな?」
撤回・・・優しくはない・・・。
「ちょっと、ヤボ用で・・・堪忍な」
待ったと言っているが、たったの二分。
忍足は気が重くなるのを感じた。
よく行く映画館まで歩く。入り口に立て看板が立っている。
「あン?こんなの見るのかよ・・・」
見た瞬間、跡部の顔色が変わる。
見た目からわかる様なバリバリのラブロマンス系。
「駄目?どこでもいいって言ったやんか?」
チッ。
跡部は舌打ちをすると、映画館の中へ入った。
「面白いと思うのになぁ・・・」
ちょっと切ないが、最後には幸せになるという話。
忍足はこういう映画が好きだった。
この映画もCMを見て、見たいなぁ〜とずっと思っていたものだった。
「はぁ〜面白かったわ」
忍足は満足そうにそう、言った。跡部は何となくつまらなそうだった。
時間的に夕暮れ。
忍足はさっき見た映画のパンフを開きながら、余韻に浸っている。
「忍足、今度は俺に付き合え」
「え?もう、遅いやん?」
忍足は一瞬驚いたが、辺りが暗くなってきているのを見て、そう言った。
「お前に付き合ってやったんだ。今度は俺様に付き合うのは当然だろ?」
でた・・・。
わがままが・・・。
忍足はガックシと肩を落とした。
「で、何処いくんや?」
「いいから・・・ついて来いよ」
忍足は言われるまま、先を歩く跡部の後ろをついていった。
不意に跡部が路地裏に消えた。
「えっ、マジ?」
忍足は急いで、その消えた路地裏に入っていった。
突然、腕を捕まれ、押さえ込まれた。
その手の感触から跡部と分かる。背中に壁の冷たさが伝わる。
「跡部・・・何の真似なん?」
「・・・お前・・・俺に惚れてんだろう?」
突然の言葉に忍足は反論することも出来なかった。
ただ、かぁ〜っと身体が熱くなった。
「見ていれば、分かるぜ」
やば・・・マジで・・・逃げな――
忍足はそう、思った。絶対に気付かれてはいけない。
この気持ち・・・。
このままでいたら、気持ちが抑えられない――
「・・・何・・冗談いってん・・・」
同性を好きになるなんてどうかしてる。
押さえ込む気持ちと裏腹に、心臓の音は大きく響く。
跡部の声と自分の心臓の音と息遣いの音が脳に直接伝わる。
手を振りほどこうとするが、ガッシリと捕まれて無理だった。
「忍足・・・こうしたかったんだろう?」
跡部のささやきと共に、忍足の唇に柔らかい感触が伝わる。
「ん・・・」
一瞬何が、起こったのか、わからなかった。
しかし、その甘い心地よさに開かれた忍足の両目は静かに閉じていった。
永い永い優しい口付けが交わされた後、激しい口付けに変わる。
忍足はただ、跡部のされるがまま、その唇を求めていた。
「忍足・・・」
しばらくして、跡部は忍足の名を呼ぶ。
――跡部が・・・好きなんや――
改めて、感じた自分の気持ちに忍足は跡部の顔を見つめていた。
――腹・・・くくったる――
このままの関係でいたかった。
できれば・・・一人の友達として・・・。
でも、もう歯止めがきかない。
半分ノリで買った黒い物体。
何をするでもなく、家に帰ったら捨てるつもりだった。
この想いと一緒に・・・・。
「跡部・・・」
忍足はそう、いうとかばんから、包みを取り出した。
「・・・お前が好きや・・・・」
その言葉に跡部は少し、驚いていた。
跡部は包みを開くと見慣れたチョコが入っていたのを見つけた。
近くで売っているチョコ。
女どもがくれた同じものだった。
跡部はしばらくして、フッと優しげな笑みを浮かべた。
――イカれていたのは・・・・俺様の方だったらしい・・な――
同じチョコでも女どもがくれたものよりも・・・。
目の前の奴がくれたチョコの方が嬉しいと素直に感じた。
『遅刻してんじゃねーよ』
『ちょっとヤボ用で・・・堪忍な』
遅刻したのはそういうことかよ
俺様が好きになったのは俺様よりも上手な奴だった
おわり