体調不良







体調悪いなら、帰れよ。
気が散って集中できねーだろ。ったく、世話が焼けるぜ…。




放課後のテニス部、部室…。

「…こりゃ、あかんやろ…」

ボソッと低い声が静かに誰もいない部屋に広がる。

自分のロッカーを目の前にして、忍足は苦い表情を浮かべた。

フラ〜

忍足に急激なめまいが襲った。

後ろに倒れそうになる彼の身体を誰かが支えた。

「お前、帰った方がいいんじゃねーか?」

顔色の悪い忍足を腕に抱きかかえながら、

跡部はいつもと変わらない口調でいう。

「…そんなにオレ、具合悪そうなん?」

忍足は多少の具合の悪さなら、部活を休むことはない。

今回も大丈夫だと思っているのだろう。

「てめぇ、自分のコンディションぐらい分かんねーのか?」

「いや、まだいけるかな〜と思っとったで…」

忍足は辛そうながらも笑みを鼓舞す浮かべなが冗談ぽくいう。

その忍足に跡部はチッと舌打ちをすると少しキツめの口調で話した。

「バカか、お前は…。たくっ、部長命令だ、今日は帰れ」

「なんや、それ。でも…そうさせてもらうわ…」

すこしづつ、忍足の顔色が悪くなってくる。

跡部は支えていた忍足の体をソファに寝かせると

「少し待ってろ」

そう言って、部室を出ていく。

「待ってろって言われてもなぁ〜、体、動けへんしなぁ…」

忍足は紛らわせるように、ボソッとつぶやいた。

しばらくして、跡部が携帯電話を手にして戻ってきた。

「家まで送ってやる、どうせ動けないだろ」

「いや、一人で帰れるん…」

忍足はこれ以上、跡部に迷惑をかけたくなくて、無理して立ち上がろうとした。

フラ〜

再び、忍足は跡部の腕の中に倒れた。

「まったく、無理すんじゃねーよ、お前が倒れる方が迷惑なのがわかんねーのか?

心配して落ち着かねーだろ」

コンコン

そんな時、部室の戸が開かれた。

「景吾坊ちゃま。お迎えに上がりました」

そこへ現れたのは運転手だった。

「行くぞ、忍足」

跡部は忍足の肩を担ぐと、校門へと向かった。

その後ろからは忍足の荷物を持った運転手がついてきた。

もちろん、下校途中の女子生徒に、注目を浴びたのは言うまでもない。

車に揺られて、数分。忍足の家につく。

まぁ、跡部ほどではないが、父親が医者だけあって、家は立派だった。

跡部は忍足を抱えつつ、玄関のベルを鳴らす。

ガチャ

「あら、跡部くん、それに侑ちゃん?」

少し驚いた表情の母親に跡部は事情を話す。

忍足の母親は跡部に息子を任せると、一人奥へと向かった。

「着いたぜ」

忍足の部屋に入り、彼をベッドに座らせる。

珍しく担いできた、忍足の荷物を適当に置く。

「跡部、おおきにな・・・」

そこへ、母親がやってきた。

「侑ちゃん、お薬と体温計、ここに置いておくわね」

そう、言って母親はベッドのそばのミニテーブルに置いた。

「跡部くん、ありがとう。本当に助かったわ。
ついでで悪いのだけど、侑ちゃんの着替え、手伝ってくれるかしら?」

と、母親は手が離せないといって、部屋を後にしてしまった。

「着替えはどこだ、侑ちゃん」

跡部はくくくと笑みをこぼす。

「・・・ほっとけや」

忍足は頬を紅く染めている。

半分は熱のせいだろう。

忍足は薬を飲むと、少し横になった。

「ほら、手伝ってやるから、着替えろよ」

適当に引っ張り出してきた服を忍足に渡す。

「・・・変なことせえへんか・・・?」

忍足は小さくつぶやく。

「して欲しいのか?」

忍足は起き上がって、ベッドの端の方へ移動しようとする。

「冗談に決まってるだろう。とにかく、さっさと着替えろ」

忍足はそう言われ、だるい体を動かし、着替え始める。

脱いだ制服を跡部はキチンとハンガーにかける。

忍足はそれを見ながら、申し訳なさそうにしていた。

「跡部・・・本当におおきにな」

跡部はクスッと笑みをこぼすと忍足の方に顔を近づけた。

そして、そのまま唇を重ねた。

「何や!?」

当然、忍足はびっくりしている。

「変なことせえへんって言ったやろ」

「送ってやった代金だ。さっさと直せよな、
でないと、気が散るんだよ」

跡部はそう言って、そのまま部屋を出て行った。

忍足の家の前では運転手が待っていた。

跡部は乗り込み、運転手に戻るぞ。と告げた。

車は再び、学校へと向かった。


おわり